2016年3月21日月曜日

2015年度神戸大学法学部・租税法・期末試験の解説と講評




【解説と採点基準】






第1問


(1)授業の最初に扱った問題であり,少しでも試験のための準備をしていれば出来るだろうと考えて出題した。講義ノートで言えば,3-9ページに記載した内容を書いてくれればよい。もちろん『租税法概説』に従った記述でも問題ない。


 採点基準としては,「租税の意義」について15点,「租税の機能」について20点を割り振って,授業で指摘したような項目について正確に書かれているか判定した。「租税の意義」という言葉が理解できなかったのか,「意義と機能」としてまとめて書いている人もいた。この場合,「租税の機能」について書いているとみなした上で,「租税の意義」に該当する事項が書かれている場合に加点した。


(2)講義ノート21-23ページで述べた。


 採点基準としては,(1)包括的所得概念に言及していれば5点,(2)包括的所得概念のようなベースラインからの乖離ということを指摘していれば10点,(3)(1)(2)についての記述が不十分であっても,授業で述べたような具体例を書いてくれていれば8点を与えた。





第2問


 こちらは少し難しいかもしれない。若干問題文がミスリーディングであったことをお詫び申し上げる。


(1)子供を託児所に預けるための支出が,所得税法上必要経費(所得税法37条)として認められるか,という問題である(講義ノート48ページ参照)。結論から言うと,現行の所得税法ついて言えば,こうした支出を必要経費として扱うことは難しいだろう。問題は,それを導くロジックである。まず,給与所得については必要経費の控除が認められておらず(引用した所得税法37条に加え,所得税法28条参照),「給与所得控除額」の控除が認められているにすぎない。条文を根拠としていても(37条に「給与所得」と書いていない),あるいは,理論的に見て認めるべきでないと述べていても,10点を与えた。


 問題は,事業所得の場合である。所得税法45条のことを覚えている人がいれば,この条文を持ち出すのでも構わない。ただ,この条文の内容を覚えていることはこの授業では要求していない。条文を引用するのではなくて,理論的に基礎づけるとすればどうなるか。恐らく,子供を託児所に預けるための支出は,事業所得に係る収入金額を得るために直接必要ではない,と論じることになるのではないか。これに対して,子供を託児所に預けないと働くことができず事業所得に係る収入金額を得ることもできないから,必要経費に該当する(間接的に役立っていれば必要経費になるはずである),という主張も可能かもしれない。必要経費として認められないことの理由付けを自分なりに書こうという意欲が見て取れたものについては,10点を与えた。


(2)講義ノート49-50ページで触れた,支出した年度の必要経費となるか,それとも「資本的支出」として資産計上される(そしてその後の年度の必要経費となるか)ということをわかりやすく説明すればよい。


 タイミングの問題ということに気がついていれば10点を与え,「資本的支出」「資産計上」「減価償却」といったテクニカルタームを使って説明できている答案にはさらに10点を与えた。






第3問


 有益なコメントをたくさんいただいた。ありがとうございました。基本的に,10点を与えた。






【レポートについて】


 租税判例百選を要約した程度のものもあったが,判決文を実際に見て,踏み込んだ検討を行っているものが少なからずあり,素晴らしいと感じた。特に,アメリカの判例を読んで検討した人は,大変だったけれど,力がついたのではないか。留学先でも租税法を勉強しようという方もいらっしゃるようで,頼もしいことである。

0 件のコメント: