2017年2月20日月曜日

2016年度神戸大学法学部租税法定期試験について

今回の定期試験では,(1)所得概念の基礎的な理解を問う問題,(2)所得税法の条文を参照して,また必要であれば判例の示した基準に従って,所得分類の判定ができるかどうかを問う問題,(3)申告することが期待できない所得についての所得税法の課税のメカニズム(実体法・手続法の両方)を考える力を問う問題,(4)日本の消費税法の仕組みを簡潔に説明できるかを問う問題,(5)ギャンブルについてどこに消費(ないし事業者から見た場合には「付加価値」)があるのかを考え,また,その消費に対して課税する仕組みを考える力を問う問題,を出題した。

結論から申し上げると,全設問について出題意図をしっかり理解して回答していた答案が数通あった(秀を与えた)反面,特に(1)(3)(5)について出題の意図を理解せず的外れなことを書いている答案が少なからずあった。

(1)については,所得概念についてどのような考え方が存在しており,またその中で支持を集めている考え方によれば,本件においてどのような課税関係となるか,ということがかけていれば,満点を与えた(講義レジュメ18ページ。12月19日に扱った)。これに対して,そもそも「所得概念」という言葉の意味を理解していない答案については,点数を与えなかった。ただし,その場合でも,(2)に該当する内容を書いてある時には(2)の評価に加味した。 できの良い答案と全くできていない答案に大きく分かれた。

(2)については,どちらかの立場を選択した上で,その要件について記述してあり(判例を踏まえる等して詳細に記述していることが望ましい),要件を設問の事案に当てはめたらどうなるか,また,もう一方の立場はなぜ取りえないのか(条文の構造からの説明でもよいし,事案の性質からでもよい)説明してあれば,満点を与えた。概してよくできていた。

(3)については,ギャンブルを通じて利益を上げることが珍しいことであることを前提に,そうした利益が必ずしも申告されていないことを認識してほしかった。その上で,どのようにしたらこうした利益について正しく課税できるか,ということが問題となる。源泉徴収制度の利用やマイナンバー制度を通じた所得の把握を提案する答案が比較的多かった。なお,「立法論」と設問に書いたにもかかわらず解釈論を展開している答案や,((2)にもかかわらず)現行法上は課税されていないという認識を背景した答案も存在していた。

(4)については,間接税であること,売上高税と付加価値税の比較,仕入税額控除,日本の現行法の問題点,等についてしっかりかけている答案が多かった。

(5)については,ギャンブルに参加することが事業者の提供するサービスを享受すること=消費だ,ということを的確に指摘できていたかどうかで,勝負がついていた。指摘できていた答案は,その消費をどのように把握するか,ということから,例えば入場料に対する消費税の課税などを提案していた。

全般に,本年度の租税法の授業は日本の実定法に即した説明を心がけたにもかかわらず,扱った範囲が広かったため,受講生の皆さんの多くは消化不良になってしまったのかもしれないと思う。今回の反省を生かして,来年度の租税法の授業をより良いものにすべく準備を進めたい。