2016年1月18日月曜日

神戸大学法学部・租税法(2016年1月18日)



以下,本日の講義用のメモを貼っておきます。授業中にこの通り喋ったわけではなく,また,若干不正確なことも書いてありますがご容赦ください。






消費税法(2016年1月18日)






[以下は,『概説』213-235ページのまとめ。期末試験の出題範囲であるが,配点は最大でも20パーセントとする予定]


○直接消費税と間接消費税


消費を行った者と納税義務者が一致するのが直接消費税。一致しないのが間接消費税(講義資料19ページ参照)。


○個別消費税と一般消費税


特定の物品・サービスのみに課されるか,一般的に課されるか。この区別は相対的なもの(一般消費税であっても,課税されない物品・サービスは存在する)。


○単段階消費税と多段階消費税


アメリカの州税である小売売上税(sales tax)と日本の「消費税」を比較せよ。消費者から見るとわからないが,税務署への支払われ方が異なる。生産段階の各事業者が払う「消費税」と小売段階の事業者だけが払う小売売上税。


○取引高税と付加価値税


日本の「消費税」を含む付加価値税(value added tax: VAT)の誕生に至る歴史を知っておくことは重要。戦前のフランス(を含むヨーロッパ)で行われていた,生産段階の各事業者がそれぞれの取引高に応じて少額の租税を払う制度(取引高税)を改善して,戦後フランスで付加価値税が発明された。取引高税の欠点は,同一の価値の物品に,流通過程が長くなるほど,租税負担が重くなること。


○付加価値とは何か


生産の各段階で事業によって生み出された価値(を金銭評価したもの)のこと。消費する物品・サービスの価格は,こうした価値の総和と一致する。※概説216ページ (b) は省略する。


○仕入税額控除方式


正当な方式としてのインボイス方式と簡易(いい加減)な方式としての日本の「帳簿方式」(現在は,財務省は「請求書等保存方式」と呼んでいる)


→平成28年度税制改革大綱で,軽減税率の導入と合わせて,インボイス方式の導入が決まった。


(以下「大綱」61-64ページより引用)


四 消費課税


1 消費税の軽減税率制度


(国税)


(1)消費税の軽減税率制度


消費税の軽減税率制度を、平成 29年4月1日から導入する。あわせて、複数税率制度に対応した仕入税額控除の方式として、適格請求書等保存方式(いわゆる「インボイス制度」)を平成33年4月1日から導入する。それまでの間については、現行の請求書等保存方式を基本的に維持しつつ、区分経理に対応するための措置を講ずる。


(2)軽減税率対象品目及び税率


軽減税率の対象となる課税資産の譲渡等(以下「軽減対象課税資産の譲渡等」(仮称)という。)は次のとおりとし、軽減税率は6.24%(地方消費税と合わせて8%)とする。


① 飲食料品の譲渡(食品表示法に規定する食品(酒税法に規定する酒類を除く。)の譲渡をいい、外食サービスを除く。)


② 定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞の譲渡


(3)適格請求書等保存方式が導入されるまでの間の経過措置


① 適格請求書等保存方式が導入されるまでの間における仕入税額控除制度については、現行の請求書等保存方式を維持する。ただし、課税仕入れが軽減税率対象品目に係るものである場合には、請求書等に記載されるべき事項として「軽減対象課税資産の譲渡等である旨」及び「税率の異なるごとに合計した対価の額」を加える。なお、これらの事項については、当該請求書等の交付を受けた事業者が事実に基づき追記することを認める措置を講ずる。


② 売上げ又は仕入れを税率の異なるごとに区分することが困難な事業者に対して、売上税額又は仕入税額を簡便に計算することを認める措置を講ずる。


(4)適格請求書等保存方式の導入


① 請求書等保存方式における請求書等の保存に代えて、「適格請求書発行事業者」(仮称)から交付を受けた「適格請求書」(仮称)の保存を、仕入税額控除の要件とする。


(注)上記の「適格請求書」とは、適格請求書発行事業者の登録番号、適用税率、消費税額等の一定の事項が記載された請求書、納品書等の書類をいい、「適格請求書発行事業者」とは、免税事業者以外の事業者であって、納税地を所轄する税務署長に申請書を提出し、適格請求書を交付することのできる事業者として登録を受けた事業者をいう。


② 適格請求書発行事業者登録制度を創設する。


(注)適格請求書発行事業者の登録については、平成 31 年4月1日からその申請を受け付けることとする。


③ 適格請求書発行事業者には、適格請求書の交付義務を課す。


④ 適格請求書を交付することが困難である一定の取引については、適格請求書の交付義務を免除する。また、当該取引に係る課税仕入れを行った事業者においては、一定の事項が記載された帳簿のみの保存による仕入税額控除を認める。


⑤ 適格請求書等保存方式の導入後一定期間については、免税事業者等から行った課税仕入れに係る消費税相当額に一定の割合を乗じて算出した額の控除を認める経過措置を講ずる。


⑥ その他適格請求書等保存方式の導入に係る所要の措置を講ずる。


(注)上記の改正は、平成 33 年4月1日以後に国内において事業者が行う資産の譲渡等及び課税仕入れ並びに保税地域から引き取られる課税貨物について適用する。


(5)その他所要の措置を講ずる。


(注)上記の改正は、(1)及び(4)を除き、平成29年4月1日以後に国内において事業者が行う資産の譲渡等及び課税仕入れ並びに保税地域から引き取られる課税貨物について適用する。


(上記(1)から(5)までにつき別紙1参照)


(6)[略]


(7)軽減税率制度の円滑な導入・運用のため、平成 28 年度税制改正法案において次に掲げる旨を規定する。


① 軽減税率制度の導入に当たり混乱が生じないよう万全の準備を進めるため、政府に必要な体制を整備するとともに、事業者の準備状況等を検証しつつ、必要に応じて、軽減税率制度の円滑な導入・運用に資するための必要な措置を講ずる。


② 軽減税率制度の円滑な運用及び適正な課税の確保の観点から、中小・小規模事業者の経営の高度化を促進しつつ、軽減税率制度の導入後3年以内を目途に、適格請求書等保存方式(インボイス制度)導入に係る事業者の準備状況及び事業者取引への影響の可能性、軽減税率制度導入による簡易課税制度への影響、経過措置の適用状況などを検証し、必要と認められるときは、その結果に基づいて法制上の措置その他必要な措置を講ずる。


(引用終わり)






(以下,参考までに財務省ホームページによる説明へのリンクを貼っておく)

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/401.htm





○国際的二重課税の排除


仕向地主義に基づいて,最終消費者所在地国が付加価値=消費額の全額について課税できるという仕組みになっている。このことを達成するための仕組みが,「輸出免税」と「輸入貨物への課税」。


○課税物件の基本構造


課税取引,免税取引(課税されないだけでなく,すでに前段階までで支払われた消費税相当額が事業者に還付される。輸出取引),非課税取引(理論的には付加価値が存在するが,政策的に課税されず,しかし,すでに支払われている消費税相当額の還付はない。大学の授業料・病院の診察料),「不課税取引」(理論的には付加価値が存在するが,事業者が介在しないので,消費税法が課税を諦めている)。


○非課税取引の範囲


本当に「消費税の課税になじまない」と言えるか疑わしいものもある。世界的には,非課税取引の範囲を縮小していこうという動きがある。


○納税義務者


「免税事業者制度」の問題点。消費者から預かっている消費税相当額を納税しなくて良いという仕組み。なお,外国では,公的団体一般が免税事業者になっている例があり,望ましくないと考えられている。


○課税標準・課税期間・税率


軽減税率の導入については前掲の「大綱」を参照。


○売上税額と仕入税額控除


仕入税額控除の存在が付加価値税の要。問題になるのが,課税取引(例えば,駐車場の経営)と非課税取引(例えば,医療サービス)の両方を行っている事業者について,それぞれの仕入をどのように区分するか,ということ(233ページの図を参照)。ここでも,前段階でかかっている消費税額よりも多い額を仕入税額控除することによって,消費者から預かっている消費税相当額(の一部)が納税されない,という問題が出てくる。