2018年5月8日火曜日

2018LS租税法1第3回(5月8日)

利子所得・配当所得
*歴史的経緯を知っておくことは重要。スタンダード所得税法59ページ以下を読んでおくとよい

§221.01
利子所得というものを民法の典型契約に準拠して理解するのか,それとも,課税の方法から演繹的に・目的論的に理解するのか,という対立を示す裁判例。

東京高判平成18年8月17日(デット・アサンプション)
「控訴人[銀行]は,本件各社債発行会社から,控訴人において当該金員を費消し,運用することを認める前提の下に,A金員の寄託を受けるとともに,本件各社債の元利金の支払日に,A金員及びその運用の対価としてあらかじめ定められた利率により算定された本件金員との合計額であるB金員を,預金者である本件各社債発行会社に対して直接払い戻すことに代えて,本件各社債の元利金の支払債務の履行のために,本件各契約上指定された原契約の相手先[社債発行会社の支払代理人]に対して支払う旨の合意が成立したものと認められるのであり,控訴人は,この支払により,預金(利子を含む。以下同じ。)の払戻しを行ったもの,あるいは,本件各契約における合意に基づき,その支払による求償権と預金の返還請求権とが相殺され,預金を返還したのと同一の効果が生じたものとみることができる。したがって,本件各契約は,控訴人が本件各社債発行会社から社債元利金支払日を返還期限としてA金員の預託を受け,A金員に預託を受けた期間に係る利子に相当する本件金員を加算した額をB金員として返還するという預金契約(消費寄託契約)と,預託されたA金員及びその利子を原資としてB金員を本件各社債発行会社に代わって支払うという委任契約が複合した契約であって,A金員の預託は「預金」に当たり,本件各金員はその利子に当たると認められる。」

§221.03
最判昭和35年10月7日民集14巻12号2420頁
上告人(東京国税局長)の訴訟代理人・田中勝次郎による上告理由

配当控除(92条)及び例外的な(しかし一般的な)課税方法(スタンダードに沿って説明)

(次回)
譲渡所得の全体像
www.geocities.co.jp/CollegeLife-Labo/4454/joto.pdf
 


2018LS租税法2第3回(5月7日)

§321.02(承前)

確認すべき用語:「損金経理」,「申告調整」

1966年の「意見書」に反映される各界の本音とは?
一般に,課税官庁としては,企業会計に基づく投資家に対する情報開示と租税会計に基づく課税官庁に対する情報開示が同一の情報に基づいていること(以下、便宜上「二人三脚的仕組み」という)が望ましい。過小な申告のインセンティヴを減殺するという意味で。(非公開会社ではこのような力学が存在しない。)
企業:投資家と課税官庁にそれぞれいい顔をしたい。投資家には利益を多く見せたいし,課税官庁には所得を少なく見せたい。しかし,二つの会計ルールが存在してそれぞれについて準備をする必要があるとすればそれはそれで面倒。
会計学者:企業の健康診断表であるはずの会計書類・財務諸表が,租税会計によって歪められるのは,けしからん。二人三脚的仕組みは,廃棄すべきである。


スタン30-40頁。「概説」のこのあたりの説明も良い。

 法人税法22条4項。どういうものが含まれるのか確認。

法人税法74条についての裁判例を一応確認。

§321.03
最判平成5・11・25民集47巻9号5278頁

(参考文献)
椿弘次『入門・貿易実務(第3版)』(日本経済新聞出版社,2011年)第7章;江頭『商取引法』第3章第1節

(一般論)
(1)「収益は,その実現があった時,すなわち,その収入すべき権利が確定したときの属する年度の益金に計上すべき」
(2)「右の権利の確定時期に関する会計処理を,法律上どの時点で権利の行使が可能となるかという基準を唯一の基準としてしなければならないとするのは相当ではなく,取引の経済的実態からみて合理的なものとみられる収益計上の基準の中から」継続して利用している基準であればOK
(3)しかし,未確定なのに収益に計上したり,すでに確定しているのに収益に計上しないというのはダメ
→(2)と(3)を合わせて読むと,最高裁の考える「収入すべき権利の確定」=「実現」は時間的な幅のある概念であり,継続して利用している基準であっても,その一定の幅の外に出るような基準は妥当でない,ということになろう。
(あてはめ)
(ア)船荷証券の買主への提供(原則)
(イ)商品の船積み(「船積日基準」)(これもOK)
(ウ)「為替取組日基準」:「商品の船積みによって既に確定したものとみられる売買代金請求権を,為替手形を取引銀行に買い取ってもらうことにより現実に売買代金相当額を回収する時点まで待って,収益に計上するものであって,その収益計上時期を人為的に操作する余地を生じさせる点において,一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合するものとはいえない」
→(ア)と(ウ)の関係が明らかではないし(大白裁判官は(ウ)は(ア)と同視できるという),上記の一般論と(ウ)も対応していない。上記の一般論からすれば,(遅い)(ア)と(早い)(イ)の間にある(ウ)という基準は問題がないはず(味村裁判官はそのように判断)。しかし,結局「収益計上時期を人為的に操作する余地があってはならない」という上記の一般論に示されていない命題に基づいて,「為替取組日基準」は「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合するものとはいえない」と判断されている。
→(文面からはそう読みづらいが)(ア)は元来原則だけれども(イ)が普及したことでもはや許されなくなった,と理解するならば,筋は通る。

平成30年度改正により新設された法人税法22条の2(後日補充する)


最判平成4年10月29日
 東北電力が,1972年から1984年にわたり,電気料金と電気税を過大に徴収していた。1984年12月に,東北電力から納税者に対して1億5000万円余を返戻する合意が成立。

「上告人[納税者]は,昭和47年4月から同59年10月までの12年間余もの期間,東北電力による電気料金等の請求が正当なものであるとの認識の下でその支払を完了しており,その間,上告人はもとより東北電力でさえ,東北電力が上告人から過大に電気料金等を徴収している事実を発見することはできなかったのであるから,上告人が過収電気料金等の返還を受けることは事実上不可能であったというべきである。そうであれば,電気料金等の過大支払の日が属する各事業年度に過収電気料金等の返還請求権が確定したものとして,右各事業年度の所得金額の計算をすべきであるとするのは相当ではない。上告人の東北電力に対する本件過収電気料金等の返還請求権は,昭和59年12月ころ,東北電力によって,計量装置の計器用変成器の設定誤りが発見されたという新たな事実の発生を受けて,右両者間において,本件確認書により返還すべき金額について合意が成立したことによって確定したものとみるのが相当である。」

*なぜ,本件の争訟が生じたのか?課税庁にとって,納税者にとって,それぞれの主張するやり方が有利なのはなぜか?

(分析)
租税法適用の前提となる私法上の法律関係に関する認識として「1972年から1984年にかけての過大な(しかし正当な)電気料金の支払い+1984年12月の返戻金の確定」と理解するならば,最高裁(多数意見)がいうような処理が自然であるようにも思える。しかし,味村裁判官は,「1972年から1984年にかけて正しい電気料金を支払った」という私法上の法律関係が(返戻金を介して)存在しているという認識を前提に,過大な電気料金の支払い分を損金算入したことは誤りであり,返戻金に対する課税はできないと考えている。問題は,私法上の法律関係についての後者のような認識を前提として,税法上,多数意見のような扱いができるかどうか。
*最判平成22年10月15日,最判昭和47年12月26日とも比較してみよう。
*税法の問題として,一応正当に発生したように見える経済的価値が最終的には実現しなかった場合にどのように処理するかという問題がある。この点につき,所得税法の事業所得・法人税法については遡及的な調整を行わないのに対して(「前期損益修正」として後の年度で調整する),事業所得以外の所得税法では遡及的な調整を行うことになっている。(とりわけ租税法1の授業でこれから説明していく。)

最近の裁判例について
ケースブック435-437ページ,スタン44-50ページ

§321.05
詳しくはスタン168ページ以下