2007年8月5日日曜日

契約と代理

agency=代理、contract=契約、corporation=会社、property=物権。このように訳すのは、間違いではない。それどころか、高校の英語のテストでこのように訳せば、満点であることは間違いない。しかし、翻訳は時に誤解を招く。アメリカで一年、ケースブックやら授業のレジュメやらに目を通してやっと、おぼろげながら、自分が手にしていた日本法の地図と、アメリカ法の森とを照らし合わせるための、光が見えてきた。

かいつまんで言えば、アメリカ法のcontractsとは、日本で言う契約よりもずっと狭い。そして、日本で言う契約の重要な部分は、あえて分類するならば、agencyとして論じられている。僕の大好きな来栖三郎『契約法』で扱われている契約類型たちは、アメリカのcontractsの教科書には出てこない。

樋口範雄『アメリカ代理法』のような、日本でもアメリカでも十分に日が当たっていない、しかし大切な分野をカバーする業績は貴重だ。ただ、この本を見ると、アメリカでこの分野の研究が決して十分にはなされていないことがわかる。クラインとコフィーの会社法の教科書がagencyから叙述を始めているように、会社法の基礎となる重要なジャンルなのに。

アメリカでも日本でも、研究には流行がある。代理についてアメリカではあまり議論がない以上に、信託についてはあまり議論がない。授業すら、あまり力が入れられていない。日本で信託というと一大研究分野で、「商事信託」などについては、「本場」アメリカでは相当な議論の蓄積があるかと思っていたのだが、どうもそうではないらしい。

それにしても、『アメリカ代理法』ですら、そこにいう「代理」が日本法では何に対応するかということについては、あまり述べていない。当事者が対等な関係だとcontract、当事者間に情報や力の面で差がある場合には、agency、日本だと両者とも「契約」、という印象を抱いているが、どうだろうか。