2018年5月30日水曜日

2018LS租税法2第7回(5月30日)

補講として開講。


473ページの「6.控除の全否定かタイミングの差異か」は重要。

*そもそも業務の遂行上必要か,という論点もある。

名古屋地判平成24年11月8日(控訴審:名古屋高判平成25年4月26日)は,納税者が「転売した不動産の購入代金が3億9615万4680円であることを前提に,これを売上原価として損金の額に算入して法人税の確定申告をしたところ,処分行政庁から,上記不動産の購入代金は3億6015万4680円であり,差額の3600万円は架空計上されたものであるとして損金算入を否認され」た事案。裁判所は,「内国法人の所得金額の計算上、損金の額に算入することができる支出は,当該法人の業務の遂行上必要と認められるものでなければならないというべきである。そこで,以下においては,XがJに交付した現金3600万円のうち原告出捐に係る1800万円に原告の業務との関連性が認められるかどうかについて検討する」と述べている。

横浜地判平成17年1月19日は次のようにいう(強調は引用者)。
「ところで、法人税法22条3項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額について、別段の定めがあるものを除き、原価、費用及び損失の額であるとしているところ、法人税法上、海外渡航費が損金に該当するかどうかについて、特段の規定は存在しない。したがって、海外渡航費が費用(同法22条3項2号)に該当するものとして損金の額に算入されるべきかどうかは、当該海外渡航の性質に照らし、それが当該法人の業務の遂行上必要な費用と認められるものであるかどうかによって判断すべきである。そして、当該海外渡航が当該法人の業務の遂行上必要なものであるかどうかについては、渡航者と当該法人との関係、渡航の目的、渡航先、渡航先での当該渡航者の活動及び渡航期間等の諸般の事情を総合的に考慮して判断することが相当である。
 基本通達において、「法人がその役員又は使用人の海外渡航に際して支給する旅費は、その海外渡航が当該法人の業務の遂行上必要なものであり、かつ、当該渡航のため通常必要と認められる部分の金額に限り、旅費としての法人の経費を認める。」(同通達9-7-6)とした上で、「法人の役員又は使用人の海外渡航が法人の業務の遂行上必要なものであるかどうかは、その旅行の目的、旅行先、旅行経路、旅行期間等を総合勘案して実質的に判定する。」(同通達9-7-7)とし、さらに、「法人の役員が法人の業務の遂行上必要と認められる海外渡航に際し、その親族又はその業務に常時従事していない者を同伴した場合において、その同伴者に係る旅費を法人が負担したときは、その旅費はその役員に対する給与とする。ただし、その同伴が例えば次に掲げる場合のように、明らかにその海外渡航の目的を達成するために必要な同伴と認められるときは、・・・その限りではない。」とし、その例示として「国際会議への出席等のために配偶者を同伴する必要がある場合」等を挙げている(同通達9-7-8)のも、上記の判断基準と同様の趣旨に基づくものと解される。」
このような一般論を踏まえて,判決は,法人の役員の小学生の子供2人の海外渡航費について,次のように判断した(現在と役員報酬に関する規律が異なることに注意)。
「そうすると、本件各渡航費は、海外渡航費として原告の損金の額に算入されるべき性質のものではなく、上記のところからすれば、丙の扶養者である甲が個人的に負担すべき費用というべきであり、これを原告が支出したことは、原告の甲に対する臨時的な給与、すなわち賞与として支給したものと認められるから、法人税法35条1項の規定により、原告の損金の額には算入されないものである。
 したがって、本件各渡航費は、原告の本件各事業年度の損金の額には算入されず、また、原告は、甲に対する本件各渡航費の支給について、所得税を徴収し、国に納付すべき義務があるというべきである(所得税法183条1項)。」


損金の第1のカテゴリー
§324.01
最判平成16年10月29日


具体例の補充として以下の事例(東京地判平成27年9月25日)を見てみよう。
https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2015/pdf/12725.pdf

「また,同[22]条4項は,同[法人税]法における所得の金額の計算に係る規定及び制度を簡素なものとすることを旨として設けられた規定であると解されるところ,「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」との規定の文言にも照らすと,現に法人のした収益等の額の計算が,法人税の適正な課税及び納税義務の履行の確保を目的(同法1条参照)とする同法の公平な所得計算という要請に反するものでない限りにおいては,法人税の課税標準である所得の金額の計算上もこれを是認するのが相当であるとの見地から定められたものと解され(最高裁平成4年(行ツ)第45号同5年11月25日第一小法廷判決・民集47巻9号5278頁参照),法人が収益等の額の計算に当たって採った会計処理の基準がそこにいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(公正処理基準)に該当するといえるか否かについては,上記に述べたところを目的とする同法の独自の観点から判断されるものと解するのが相当である。
 そして,このような見地から法人税法の課税所得における損金の計算についてみると,一般に,同法22条3項1号に規定する,特定の収益との対応関係を明らかにできる売上原価等については,その収益が計上された事業年度に,同項2号に規定する販売費,一般管理費等については,発生した事業年度に,同項3号の損失については,損失の発生した事業年度に,それぞれ損金の額として算入されるべきものと解するのが相当である。」

過去の年度に計上すべきであった売上原価を損金算入することを否定。そして,納税者の主張する前期損益修正の扱いにつき,次のように述べて,法人税法独自の観点から否認。
「前記(1)で述べたような法人税法22条4項の趣旨に照らすと,企業会計の慣行として広く行われている処理であっても,適正な課税及び納税義務の履行の確保を目的とする同法の所得計算という要請に反する場合には,公正処理基準に該当するということはできず,公正妥当であるとはいえないものとして,法人税法上採用することができないものというべきである。」


損金の第2のカテゴリー
§324.02

§324.03
最判平成20年9月16日

*東京地判平成28年7月19日(横溝大先生(名古屋大学)の評釈あり)

2018LS租税法R&W第6回(5月29日)

§163.01
これは民法で動機の錯誤の説明で出てくる判例。

§163.02
静岡地判平成8年7月18日。時効援用時に一時所得となるとの判断。
東京地判平成4年3月10日訟務月報39巻1号139頁も見ておきたい。長期譲渡所得が生じるかどうかが争われた事案。課税庁が,時効取得時の時価が取得価額であるという(ある意味,甘い)処分をしたのだが,納税者はこの課税処分を争った。
さらに,ケースブック128頁で引用されている,大阪高判平成14年7月25日。

§164.01
「租税回避」という概念はあまり使いたくないが,一応説明。

§164.02
東京高判平成11年6月21日
東京地判平成13年3月28日→東京高判平成14年3月20日(岸事件)も見ておく。

2018年5月29日火曜日

2018LS租税法1第10回(5月29日)

支払者の源泉徴収義務に関する問題
→アブノーマルな経済的価値の流出の場合にも,源泉徴収義務を負うとされる。

給与所得控除

§223.05
最判昭和58年9月9日
これも最高裁の示した一般論が重要。若干わかりにくい「これらの性質を有する給与」につき,調査官解説を読んで考えてみよう。

*以上のような広い意味での人的役務の対価に対する課税問題は,もちろん法人税法の役員報酬に関する規律と合わせて理解すべきであるが,さらにより広く,企業の役員に対する報酬のあり方という面からも考えておくべきである。
例えば,櫛笥隆亮による次のようなプレゼン資料が一つの参考になろう。
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/cgs_kenkyukai/pdf/006_05_00.pdf

§224.01
弁護士顧問料事件(既出)

§224.02
そもそもなぜ,雑所得について損益通算が認められなくなったのか?
→昭和43年度税制改正。




2018LS租税法2第6回(5月28日)

§322.05(承前)
新株有利発行により経済的価値を受領した側の受贈益の計上が問題となった東京地判平成27年9月29日(ケースブック456ページ参照)とは異なり,経済的価値を喪失した側のキャピタル・ゲイン課税が問題となっている(所得税法でいう「みなし譲渡」に相当)。

解釈論として問題となる点については,ケースブック461ページ4参照。

ケースブック461ページ5について。
平成10年改正により改正(のちに平成13年改正で廃止)された旧法人税法51条(特定現物出資の圧縮記帳)の適用について,原審は次のように述べていた(強調は引用者)。
「なお、上記の結論によると、もともと原告が保有していた株式に関する多額の含み益については、何らの課税もされない結果が生ずることとなるが、これは、法51条がその定める特定出資についていわゆる圧縮記帳による課税の繰延べを認め、しかも平成10年改正前には外国法人の設立についても同条の適用が認められていたことに端を発するものである。すなわち、同条の圧縮記帳の方法により保有株式を簿価で現物出資して外国法人を設立した後、当該外国法人が現物出資された株式をやはり簿価によって他の外国法人に譲渡した場合、当該譲渡には我が国の課税権が及ばないことから、結局、本件と同様、圧縮記帳によって課税が繰り延べられた含み益については、我が国では課税がされないままで終わらざるを得ないのである。本件における税務上の事態は、アトランティック社がその保有するテレビ朝日等の株式を簿価でアスカファンド社に譲渡した場合にも生ずることであり、その場合には原告に益金が生じたとみる余地は全くないのであるし、また、そのよ
うな事態が生ずることは、圧縮記帳の方法により外国法人の設立を許した場合には容易に想定し得るにもかかわらず、法が何らの措置を講じていないことからすると、法自体がやむを得ないものとして放置していたといわざるを得ないのであるから、結局、本件のような事態の起こることは、当時の法人税法上やむを得なかったと考えられるのである。」

損金
§323.01
まず全体像をつかむことが重要であり「スタンダード」をしっかり見ておきたい。まず,資本等取引からは損金が生じないことを把握し,次に,3つのカテゴリーのそれぞれについて基本を押さえ,さらに「別段の定め」による修正ないし補充を抑えること。

§323.02
最判昭和43年11月13日はかなり古い事案。一応見ておく程度でよい。2つのロジックの混淆というか並立。ただし,負債と株式の区別の問題は理論的にも実務的にも極めて重要。

§323.03
最決平成6年9月16日
→どうも詭弁という印象が拭えないのだが・・・





2018年5月27日日曜日

2018租税法1第8・9回(5月23日)

補講として開講。

§223.01
最判昭和56年4月24日民集35巻3号672頁(弁護士顧問料事件)
最高裁が示した一般論をしっかり把握しておくこと。

東京高判昭和47年9月14日(日本フィルハーモニー)

最判平成13年7月13日(りんご生産組合。百選第4版に私の解説あり)
民法上の組合は,いわゆるパス・スルー課税に服するが,現実には,源泉徴収義務を負う(この事件の第一審参照)など,事実上の権利義務の主体として活動を行なっている。そのような民法上の組合とその一構成員である組合員との間に,給与所得を基礎付けるような法律関係が成立しうるかどうか,ということが問題となった。最高裁は,これを肯定した。税務署長の処分やこれを認めた高裁判決は,組合と組合員との間の金銭の「分配」と,組合レベルで計算して生じた観念的な利益の組合員への「配賦」とを混同しているきらいがある。

福岡地判昭和62年7月21日(九電検針員)
労働法上の労働者性を主張することが主眼だったのかも。

給与所得と事業所得の区分の,消費税との関係。

厳密にいうと,給与所得の中でも通達によって課税が軽減されているサブカテゴリーがある。所得税基本通達28ー1は次のように定める。
28-1 宿直料又は日直料は給与等(法第28条第1項に規定する給与等をいう。以下同じ。)に該当する。ただし、次のいずれかに該当する宿直料又は日直料を除き、その支給の基因となった勤務1回につき支給される金額(宿直又は日直の勤務をすることにより支給される食事の価額を除く。)のうち4,000円(宿直又は日直の勤務をすることにより支給される食事がある場合には、4,000円からその食事の価額を控除した残額)までの部分については、課税しないものとする。
(1) 休日又は夜間の留守番だけを行うために雇用された者及びその場所に居住し、休日又は夜間の留守番をも含めた勤務を行うものとして雇用された者に当該留守番に相当する勤務について支給される宿直料又は日直料
(2) 宿直又は日直の勤務をその者の通常の勤務時間内の勤務として行った者及びこれらの勤務をしたことにより代日休暇が与えられる者に支給される宿直料又は日直料
(3) 宿直又は日直の勤務をする者の通常の給与等の額に比例した金額又は当該給与等の額に比例した金額に近似するように当該給与等の額の階級区分等に応じて定められた金額(以下この項においてこれらの金額を「給与比例額」という。)により支給される宿直料又は日直料(当該宿直料又は日直料が給与比例額とそれ以外の金額との合計額により支給されるものである場合には、給与比例額の部分に限る。)

§223.02
京都地判昭和56年3月6日

神戸地判平成元年5月22日

実務的には,源泉徴収義務者が183条に基づく源泉徴収をするのか,204条に基づく源泉徴収をするのか,あるいは,源泉徴収義務を負わないのか,ということが問題。
次に掲げる所得税基本通達が示すように,弁護士顧問料事件最判の基準からすると給与所得になり得ないようなものであっても,実務上給与所得として扱われていることがある。

28-7 国又は地方公共団体の各種委員会(審議会、調査会、協議会等の名称のものを含む。)の委員に対する謝金、手当等の報酬は、原則として、給与等とする。ただし、当該委員会を設置した機関から他に支払われる給与等がなく、かつ、その委員会の委員として旅費その他の費用の弁償を受けない者に対して支給される当該謝金、手当等の報酬で、その年中の支給額が1万円以下であるものについては、課税しなくて差し支えない。この場合において、その支給額が1万円以下であるかどうかは、その所属する各種委員会ごとに判定するものとする。」

§223.03
最判昭和37年8月10日
→当時,通達により,一人当たり月額500円までは非課税とされていた。その後,法9条1項5号,令20条の2が定められた。

フリンジ・ベネフィット,「使用者の便宜」理論

最判平成17年1月25日民集59巻1号64頁(ストック・オプション)
所得税法228条の3の2も見ておく。  
299頁の記述に関連して,平成28年度改正における「譲渡制限付株式」の解禁(所得税法施行令84条)が重要(実務サイドからの解説として,TandAマスター647号4頁(櫛笥)参照)。令84条の規定は,基本的に299頁の裁判例の立場と同じ。




2018年5月23日水曜日

2018LS租税法R&W第5回(5月22日)

§132.01
大阪高判昭和44年9月30日(スコッチライト事件)

スコッチライト(Scotchlite)とは・・・
https://www.3mcompany.jp/3M/ja_JP/scotchlite-reflective-material-jp/

関税評価の仕組み。

*87ページ,「外間実」は「外間寛」の誤記。

87ページの「関連裁判例」だが,重要なのは,固定資産税に関する一連の最高裁判例(90ページ参照。資料を配布する)。

§140.01
告示の法源性については争いがある。

§140.02
最判昭和33年3月28日(パチンコ球遊器事件)

§150.01
東京高判昭和59年3月14日(大陸棚)
実務的には結構重要な問題。イギリスでもこの件に関する議論がある。

§161.01
最判平成22年3月2日民集64巻2号420頁(ホステス報酬)(百選第6版に私の解説あり)

§162.01
武富士(私の評釈あり。しかし,最近の悩みにつき近刊の『概説(第3版)』参照。)

§162.02
匿名組合契約


2018年5月22日火曜日

2018LS租税法1第7回(5月22日)

261ページの土地改良区決済金事件から

§222.06
最判平成17年2月1日
(無償移転が介在したため)取得費等の引き継ぎが行われる場合における,取得費の範囲。
納税者を救済するというこの時期の最高裁らしい判決であると同時に,前述の「付随費用」を梃子にした法律論を展開している。

§222.07
269頁1は,時間があったらみんなで考えてみる。
東京地判平成3年2月28日
最判平成6年9月13日判例時報1513号97頁
→昨日租税法2で扱った遺留分減殺請求に関する判例との比較。最判平成17年2月1日が出た後から考えると,理由づけは不十分。

東京高判平成23年9月21日
→未分割の遺産を構成する個々の財産については共同相続人が法定相続分に従って持分を有しているとみなされる。この個々の財産の一つを売却して譲渡所得が発生した場合,それは,実質的には,「未分割の遺産に対する所得税」である。しかし,今の日本の所得税法・相続税法では,相続開始時に即座に相続人が遺産を構成する個々の財産を取得するとみなしているので,こうした「未分割の遺産に対する所得税」は,形式的には,共同相続認に対する所得課税と構成されざるを得ない。所得税額の負担については,遺産分割の際に共同相続人間で考慮してもらうしかない。(原審は「ちなみに,同所得税を相続財産の管理に関する費用とみれば,本来的相続分に応じて負担することになり(民法885条,253条),相続税と同様これに該当しないと見れば共有者固有の債務となるが,本件ではいずれにせよAの負担となる」と述べているが,上記のように解するならば,必ずしもそのようには言えないのではないか。)

§222.08
個人的には課税処分にやや無理があると思う,2つの関連した裁判。なぜこのような課税処分が「強行」されたのか。その背後にある,相続税法の実務(財産評価)の問題点とは?
最終的には,父から妻・娘への土地の「負担付贈与」が「(低額)譲渡」として譲渡所得を発生させ(別件訴訟),その直後に行われた妻・娘から浜名湖競艇事業団への土地の売却によるキャピタル・ゲインが短期譲渡所得として扱われる(本件)とされた。
*一般に,負担付き贈与についてこのような課税が行われているのか?債務の承継を伴う相続(「負担付き相続」?)においては,このような課税は行われていないのではないかと思うのだが・・・
*対価を払う,というタイプの「贈与」が本当に「負担付き贈与」なのか,そもそも贈与と事実認定すべきではないのではないかという問題もある。

東京高判平成26年5月19日
→個人から法人への「高額譲渡」。譲渡の対価として申告された部分の一部が一時所得であるとして課税処分が行われた珍しい事例。普通に考えれば,どちらでも税額は変わらないのだが,本件では,(当初申告において)取得費が総収入金額を上回っており,譲渡所得の金額の計算上損失の金額が生じていた。

2018LS租税法2第5回(5月21日)

§322.03
大阪高判昭和53年3月30日

考え方としては,二段階で理解すると良い。
第1に,資産の移転ないし役務の提供を通じて,手放した会社には,どのような課税関係が生じるか。その際,時価での譲渡ないし時価での役務提供があったとみなして(所得税でいう「みなし譲渡」と同じ),課税関係を考える。
第2に,会社に実際に残っている経済的価値(無償譲渡・無償提供の場合は,ゼロ。低額譲渡・低額提供の場合は,受領した対価)と時価との差額をどのように性質決定するか考える。役員報酬?それとも,寄附金?どのように性質決定するかにより,どの範囲で損金算入できるかが違ってくる。
*スタン67-71頁

ケースブック452頁の「対価的意義を有する利益」と513-516頁の寄附金とならない場合についての説明。(→スタン80-82頁。昨年度の租税法2試験問題及びその解説も参照。寄附金のところでまとめて解説する。)

*スタン74-75頁の「一段階説」
要するに,実際の対価がなんであろうと,資産の譲渡が行われた場合に,時価で譲渡が行われたとみなしてキャピタル・ゲイン(ロス)を実現させて課税を行う。

§322.04
これは,そんなに難しくない。所得税でいう一時所得と同じように考える。
個人の側の譲渡益課税,相続税の課税,受贈者たる法人の法人税の課税,の3つについて混乱しないように!
*所得税に関する事案だが,455頁の最判平成4年11月16日判例時報1441号66頁も見ておく(これも,味村治裁判官の反対意見あり)。→昨年度の租税法1の講義資料

*余裕があれば,456頁に引用されている,東京地判平成27年9月29日判例タイムズ1429号181頁を考えてみたい。

§322.05
最判平成18年1月24日(オウブンシャホールディング)
 まずは,なぜこのような取引が行われたのか,考えてみたい。私自身の書いたものとして,百選第5版58事件解説参照。



2018年5月20日日曜日

2018LS租税法1第6回(5月16日)

補講として開講。


§222.04
「二重利得法」
所得税法39条の類推適用でも行けたかも。

§222.05
最判平成4年7月14日
5月8日にも話した,支払利子をどこに対応させるか,という話。本判決を最判平成4年9月10日の味村意見(先週の配布物に掲載)と対比せよ。なお,金子論文,中里=ラムザイヤー論文も面白い。
後年の最高裁判決との関係では,「付随費用」という概念を導入したことに意味があるということになろう。→譲渡費用の文脈で,最判平成18年4月20日(次回扱う)

260ページの「減価償却資産の取得費」の仕組みもしっかり理解しておくこと。



2018年5月14日月曜日

2018LS租税法2第4回(5月14日)

§322.01
法人税法22条2項を読む
ケースブック442ー443頁の記述をしっかり押さえておく
「有償取引」に関するルールが原則であることをまずは把握する
その上で,「無償取引」(ないし,低額取引)が問題となる場合の処理を理解する
 (この授業のベースともなる私自身の理解については,金子宏編『租税法の発展』所収の「適正所得算出説を読む」を参照。)

時間軸との関係では,相互タクシー事件→清水惣事件→南西通商事件

§322.02・03
最判平成7年12月19日民集49巻10号3121頁(南西通商)
→なぜこういう取引をしたのか?所得税法上の株式譲渡益非課税の廃止との関係か(参照,佐藤英明『スタンダード所得税法(第2版補正版)』147頁。パチンコ平和事件も同時期の事案)。
最判昭和41年6月24日民集20巻5号1146頁(相互タクシー)



2018年5月13日日曜日

2018LS租税法1第4・5回(5月9日)

補講として2コマ連続で開講。

利子所得・配当所得の補充

2017講義資料49-66ページに引用の裁判例を参照。
横浜地判平成2・3・19 税務訴訟資料175-1228
東京地判平成21・11・12 判タ1324-134

譲渡所得
(配布物)
「譲渡所得の全体像」
2017講義資料92-113ページ

*所得税法の条文の書きぶりからは,「移転」は財産権の帰属の変更全てを含むのに対して「譲渡」はなんらかの経済的価値の流入を伴うものを想定していたと考えられる。所得税法においては,「無償譲渡」などという表現はmisnomerに他ならない。しかし,「譲渡」を(所得税法にいう)「移転」の意味で用いている法人税法(22条2項を参照せよ)の議論と混線して,「無償譲渡」という表現が所得税法を論じる際に用いられるようになってしまった。最高裁判例でも,「移転」のつもりで「譲渡」という言葉を用いている例がある(昭和47年,50年の判決を参照)。最近の学説も,「移転」と「譲渡」を互換的に用いて論じているものが多い。この授業では,両者をしっかりと区別して説明する。その方が,譲渡所得課税を正しく理解できるはず。

 §221.01
最判昭和43年10月31日は「みなし譲渡」の事例
最判昭和47年12月26日では,直接には,譲渡所得の収入金額が問題となっている。

§221.02
最判昭和50年5月27日は,読み方が難しい。本件における財産分与に伴う不動産の移転が有償移転なのだとすると,無償移転に言及した一般論に意味はないということになりそう。
最判昭和45年10月23日は,ケースブック引用部分の後の叙述にも注意。本当に類推適用したわけではない!

§221.03
「生活に通常必要な動産」と「生活に通常必要でない資産」
ケースブック249ページの「有価証券の売買から生じる譲渡所得が非課税とされていた」ことに関しては,278ページのコラムのほか,557ページ以下の最判平成16年7月20日も参照。







2018年5月9日水曜日

2018LS租税法R&W第4回(5月8日)

§125.01
最判平成23年9月22日
私自身の研究(財産権保障と租税の関係,「遡及立法」)は,これの関連事案の第一審判決の評釈から発展させたもの。

なお,ケースブック25ページ4の記述(第5版で新たに付け加えられた部分)に注目。

租税公平主義
§131.01
サラリーマン税金訴訟(大島訴訟)

最判昭和37・2・28(源泉徴収制度の合憲性):最近でも引用されることのある重要な先例。

(次回ここから)
§132.01
スコッチライト事件。

2018年5月8日火曜日

2018LS租税法1第3回(5月8日)

利子所得・配当所得
*歴史的経緯を知っておくことは重要。スタンダード所得税法59ページ以下を読んでおくとよい

§221.01
利子所得というものを民法の典型契約に準拠して理解するのか,それとも,課税の方法から演繹的に・目的論的に理解するのか,という対立を示す裁判例。

東京高判平成18年8月17日(デット・アサンプション)
「控訴人[銀行]は,本件各社債発行会社から,控訴人において当該金員を費消し,運用することを認める前提の下に,A金員の寄託を受けるとともに,本件各社債の元利金の支払日に,A金員及びその運用の対価としてあらかじめ定められた利率により算定された本件金員との合計額であるB金員を,預金者である本件各社債発行会社に対して直接払い戻すことに代えて,本件各社債の元利金の支払債務の履行のために,本件各契約上指定された原契約の相手先[社債発行会社の支払代理人]に対して支払う旨の合意が成立したものと認められるのであり,控訴人は,この支払により,預金(利子を含む。以下同じ。)の払戻しを行ったもの,あるいは,本件各契約における合意に基づき,その支払による求償権と預金の返還請求権とが相殺され,預金を返還したのと同一の効果が生じたものとみることができる。したがって,本件各契約は,控訴人が本件各社債発行会社から社債元利金支払日を返還期限としてA金員の預託を受け,A金員に預託を受けた期間に係る利子に相当する本件金員を加算した額をB金員として返還するという預金契約(消費寄託契約)と,預託されたA金員及びその利子を原資としてB金員を本件各社債発行会社に代わって支払うという委任契約が複合した契約であって,A金員の預託は「預金」に当たり,本件各金員はその利子に当たると認められる。」

§221.03
最判昭和35年10月7日民集14巻12号2420頁
上告人(東京国税局長)の訴訟代理人・田中勝次郎による上告理由

配当控除(92条)及び例外的な(しかし一般的な)課税方法(スタンダードに沿って説明)

(次回)
譲渡所得の全体像
www.geocities.co.jp/CollegeLife-Labo/4454/joto.pdf
 


2018LS租税法2第3回(5月7日)

§321.02(承前)

確認すべき用語:「損金経理」,「申告調整」

1966年の「意見書」に反映される各界の本音とは?
一般に,課税官庁としては,企業会計に基づく投資家に対する情報開示と租税会計に基づく課税官庁に対する情報開示が同一の情報に基づいていること(以下、便宜上「二人三脚的仕組み」という)が望ましい。過小な申告のインセンティヴを減殺するという意味で。(非公開会社ではこのような力学が存在しない。)
企業:投資家と課税官庁にそれぞれいい顔をしたい。投資家には利益を多く見せたいし,課税官庁には所得を少なく見せたい。しかし,二つの会計ルールが存在してそれぞれについて準備をする必要があるとすればそれはそれで面倒。
会計学者:企業の健康診断表であるはずの会計書類・財務諸表が,租税会計によって歪められるのは,けしからん。二人三脚的仕組みは,廃棄すべきである。


スタン30-40頁。「概説」のこのあたりの説明も良い。

 法人税法22条4項。どういうものが含まれるのか確認。

法人税法74条についての裁判例を一応確認。

§321.03
最判平成5・11・25民集47巻9号5278頁

(参考文献)
椿弘次『入門・貿易実務(第3版)』(日本経済新聞出版社,2011年)第7章;江頭『商取引法』第3章第1節

(一般論)
(1)「収益は,その実現があった時,すなわち,その収入すべき権利が確定したときの属する年度の益金に計上すべき」
(2)「右の権利の確定時期に関する会計処理を,法律上どの時点で権利の行使が可能となるかという基準を唯一の基準としてしなければならないとするのは相当ではなく,取引の経済的実態からみて合理的なものとみられる収益計上の基準の中から」継続して利用している基準であればOK
(3)しかし,未確定なのに収益に計上したり,すでに確定しているのに収益に計上しないというのはダメ
→(2)と(3)を合わせて読むと,最高裁の考える「収入すべき権利の確定」=「実現」は時間的な幅のある概念であり,継続して利用している基準であっても,その一定の幅の外に出るような基準は妥当でない,ということになろう。
(あてはめ)
(ア)船荷証券の買主への提供(原則)
(イ)商品の船積み(「船積日基準」)(これもOK)
(ウ)「為替取組日基準」:「商品の船積みによって既に確定したものとみられる売買代金請求権を,為替手形を取引銀行に買い取ってもらうことにより現実に売買代金相当額を回収する時点まで待って,収益に計上するものであって,その収益計上時期を人為的に操作する余地を生じさせる点において,一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合するものとはいえない」
→(ア)と(ウ)の関係が明らかではないし(大白裁判官は(ウ)は(ア)と同視できるという),上記の一般論と(ウ)も対応していない。上記の一般論からすれば,(遅い)(ア)と(早い)(イ)の間にある(ウ)という基準は問題がないはず(味村裁判官はそのように判断)。しかし,結局「収益計上時期を人為的に操作する余地があってはならない」という上記の一般論に示されていない命題に基づいて,「為替取組日基準」は「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合するものとはいえない」と判断されている。
→(文面からはそう読みづらいが)(ア)は元来原則だけれども(イ)が普及したことでもはや許されなくなった,と理解するならば,筋は通る。

平成30年度改正により新設された法人税法22条の2(後日補充する)


最判平成4年10月29日
 東北電力が,1972年から1984年にわたり,電気料金と電気税を過大に徴収していた。1984年12月に,東北電力から納税者に対して1億5000万円余を返戻する合意が成立。

「上告人[納税者]は,昭和47年4月から同59年10月までの12年間余もの期間,東北電力による電気料金等の請求が正当なものであるとの認識の下でその支払を完了しており,その間,上告人はもとより東北電力でさえ,東北電力が上告人から過大に電気料金等を徴収している事実を発見することはできなかったのであるから,上告人が過収電気料金等の返還を受けることは事実上不可能であったというべきである。そうであれば,電気料金等の過大支払の日が属する各事業年度に過収電気料金等の返還請求権が確定したものとして,右各事業年度の所得金額の計算をすべきであるとするのは相当ではない。上告人の東北電力に対する本件過収電気料金等の返還請求権は,昭和59年12月ころ,東北電力によって,計量装置の計器用変成器の設定誤りが発見されたという新たな事実の発生を受けて,右両者間において,本件確認書により返還すべき金額について合意が成立したことによって確定したものとみるのが相当である。」

*なぜ,本件の争訟が生じたのか?課税庁にとって,納税者にとって,それぞれの主張するやり方が有利なのはなぜか?

(分析)
租税法適用の前提となる私法上の法律関係に関する認識として「1972年から1984年にかけての過大な(しかし正当な)電気料金の支払い+1984年12月の返戻金の確定」と理解するならば,最高裁(多数意見)がいうような処理が自然であるようにも思える。しかし,味村裁判官は,「1972年から1984年にかけて正しい電気料金を支払った」という私法上の法律関係が(返戻金を介して)存在しているという認識を前提に,過大な電気料金の支払い分を損金算入したことは誤りであり,返戻金に対する課税はできないと考えている。問題は,私法上の法律関係についての後者のような認識を前提として,税法上,多数意見のような扱いができるかどうか。
*最判平成22年10月15日,最判昭和47年12月26日とも比較してみよう。
*税法の問題として,一応正当に発生したように見える経済的価値が最終的には実現しなかった場合にどのように処理するかという問題がある。この点につき,所得税法の事業所得・法人税法については遡及的な調整を行わないのに対して(「前期損益修正」として後の年度で調整する),事業所得以外の所得税法では遡及的な調整を行うことになっている。(とりわけ租税法1の授業でこれから説明していく。)

最近の裁判例について
ケースブック435-437ページ,スタン44-50ページ

§321.05
詳しくはスタン168ページ以下

2018年5月1日火曜日

2018LS租税法R&W第3回(5月1日)

§121.01
ケースブックでは主として租税法律主義に言及する部分が載っているが,引用されている部分の前には,次のように書かれている。
「論旨は土地の固定資産税の納税義務者は、同税の納期において真実の土地所有権者と解すべきであるにもかかわらず、地方税法の関係条規を右と異って原判決のように解するとすれば、原判決は憲法一一条、一二条、一四条、二九条、三〇条、六五条に違反すると主張するのである。よって地方税法の関係条規を見ると、土地の固定資産税は土地の所有者に課せられるけれども、土地所有者とはその年度の初日の属する年の一月一日現在において、土地台帳若しくは土地補充課税台帳に所有者として登録されている者をいい(地方税法三四三条、三五九条)、従ってその年の一月一日に所有者として登録されていれば、それだけで固定資産税の納税義務者として法律上確定されるから、四月一日に始まるその年度における納期において土地所有権を有する者であると否とにかかわらず、同年度内納税義務者にかわりがないことになっている。かように地方税法は固定資産税の納税義務者を決定するのに課税の便宜のため形式的な標準を採用していることがうかがわれるのである。」
すなわち,固定資産税のいわゆる「名義人課税主義」の合憲性が争われた事案である。

§121.02
重要。最高裁が何を言ったのか,しっかり把握しておく。また,国民健康保険料の決定方法がどうなっていたのか,も。

§122.01
課税要件法定主義。委任立法自体は憲法が許容しているから,どこまでを議会で定めなくてはならないか,ということが問題。基本的には「法規」だが。
行政法一般と租税関係で特に違うのかどうか,ということも一つの論点だが,とりあえずケースブックに載っている裁判例を見ておこう。
「大阪銘板事件」当時の法人税法施行規則はかなり込み入っている。

§123.01
課税要件明確主義。

§123.02
秋田市国民健康保険税事件。
神奈川県臨時特例企業税事件。

§124.01
合法性の原則。
課税庁と納税者の間の合意が許される範囲の問題は,結局,裁判所の権限の問題?(客観的には間違っているかもしれない)両者の合意に,裁判所がどこまで拘束されるか?

2018LS租税法1第2回(5月1日)

§211.02
最判昭和46年(承前)
「更正の請求」について,基本的な条文を確認すること

§211.03
「実現(realization)」 とは(一応の定義):ある者に帰属する経済的価値が,外部に明らかな形で評価されること。売買や交換がその契機としての典型。
アメリカ(租税)法における基本概念:かつて,「実現」が所得税課税のための要件と解されている時期があった。
所得の「発生(accrual)」と「実現」の区別
アメリカでも日本でも,未実現であるとしても発生していれば所得に対して課税できる
立法政策上,未実現の利得に課税しないということにしている場合は少なくない(譲渡所得など)

「帰属所得(imputed income)」
imputeというのは,attributeと同じような意味
見たところ所得はなさそうだが,実際には所得が発生しているがそれを即座に自ら消費しているような場合に,所得がある,ということを説明するための概念が「帰属所得」

§211.05
大阪地判昭和54・5・31
包括的所得概念(純資産増加説)から考えた,とも言いうる判決
事前と事後の経済状態を比較して,差額を(非課税所得ではない)所得と見ている

日本では,不法行為に基づく損害賠償は損害を塡補するものであるということになっているが,政策的に重い賠償金が課されるアメリカでは実損害の塡補を超える部分が所得課税の対象となるか議論がある(→玉國教授の一連の研究。2015年度学部講義ノート43-46ページ)。
日本でも,契約の不履行等に伴い契約当事者が損害賠償金を取得することがありうる。この損害賠償金が,当事者の経済状態を高めるものである場合には,課税の対象となるか?しかし,契約が普通に履行されたとしても,当事者の経済状態は高まるのではないか(そのようなことが想定されないと,当事者はそもそも契約を結ばない)?

最近,損害賠償金およびそれと関連する金員に関する課税関係をめぐる裁判例がいくつも現れている。細かく区分して,それぞれの性質を考えて,課税関係(課税されるか,所得分類はどれか)を判断する必要がある。

§214.01
スタン44-55
似たような概念について混乱してしまわないためには,条文が使っているターミノロジーの正確なところをしっかり覚えるのも大事。

包括的所得概念と所得分類(が存在すること)の緊張関係:正確に言えば,シャウプ勧告以前の「所得の種類ごとに担税力や適切な課税方法が異なる」という思考の残存である。

損益通算に対する制限が果たしている機能=個別的否認規定といってよい:実質的には所得(消費)である要素が控除の対象となってしまうことを防止する機能;恣意的な(実際の経済的地位の変化に対応しない)損失の額を利用して他の種類の所得の額への課税が及ばないことを防止する機能。