2016年10月20日木曜日

日本の税制とタックス・ヘイブン

高等学校の先生方を対象とした「現代社会」の参考資料に,標記の記事を執筆しました。限られた字数の中でできるだけ正確に現状を描くように努めましたので,ご覧いただけると幸いです。こちらから読めます。なお,執筆にあたっては帝国書院の皆様にお世話になりました。ありがとうございました。

2016年4月14日木曜日

TLP租税法判例・事例研究の授業を始めました

大阪梅田の神戸大学梅田ラボラトリと東京有楽町の神戸大学東京オフィスをテレビ会議システムでつないで,標記の授業を始めました。活発な議論が行われ,幸先の良いスタートを切れたのではないでしょうか。

2016年4月6日水曜日

アメリカ合衆国の土地利用法

神戸法学雑誌65巻3号と同4号にアメリカ合衆国の土地利用法に関する研究ノートを掲載しました。2014年度の学習院大学での講義ノートをもとに,講義ノートにあった日本法に関する(中途半端な?)言及を省いたものです。アメリカの土地利用法,財産権法について日本語でその内容を知りたいという人には多少参考になるかもしれません。

LS租税法2(第1回)

今年度の法科大学院の租税法2(4単位)の授業を始めました。
今学期は,租税法1で積み残したところを中心に,重要判例の位置づけを明確にするとともに条文の解釈論がしっかりとできるようになるように工夫した授業をしたいと思っています。次回は,給与所得のところを扱います。

2016年3月23日水曜日

TLP租税法・準備セッション

3月22日に,4月から始まる神戸大学大学院法学研究科トップ・ロイヤーズ・プログラム(TLP)租税法の準備セッションを開催しました。租税法の勉強の仕方,博士論文を書くにあたって心がけて欲しいことについての説明のほか,4月からの私の授業(租税法判例・事例研究,火曜夜)の前半で取り上げる判例及び報告順の決定を行いました。

2016年3月21日月曜日

2016年度,2017年度の租税法の授業について(法科大学院)

 私は,2016年度,神戸大学法科大学院では,「租税法2(4単位)」及び「R&W租税法(2単位)」の授業を担当いたします。後者は,2015年度までは共栄法律事務所の元氏先生に担当していただいておりましたが,2016年度からは私の担当となります。
 「租税法2」では,2015年度後期に開講した「租税法1」に引き続き,金子宏ほか編『ケースブック租税法』に沿って,租税法の基本的な考え方や重要判例について学んでいきます。「租税法1」は若干駆け足気味でしたので,その範囲の復習もいたします。
 なお,2016年度には「租税法1」の授業は開講いたしません。神戸大学法科大学院に在学中の方で,あるいは卒業生の方で,租税法を勉強したいが上記のような租税法関係科目を取ることができないがなお租税法を勉強してみたいという人は,適切な書物等を紹介しますので,お気軽にご連絡下さい。

 2017年度からは,3L生向けに「租税法1(2単位)」を前期に, 「租税法2(2単位)」と「R&W租税法(2単位)」を後期に開講する予定です。これは,(1)現在の司法試験の租税法の試験範囲の広さから考えると,3Lから準備を開始すれば十分であること(2Lのうちは基本科目の勉強に専念すべき),(2)司法試験で租税法を選択しないが租税法を勉強したいという人にとっては3L前期に「租税法1」を開講することが便宜であると考えられること,によるものです。「租税法1」では所得課税の基礎(所得税法のほぼ全範囲),「租税法2」では租税法総論と法人税法を扱い,「R&W」ではさらに発展的な内容を取り上げます。教科書類との対応関係で言えば,「租税法1」は『租税法概説』の所得税部分あるいは佐藤英明『スタンダード』,「租税法2」は『租税法概説』の総論・手続法・法人税の部分に対応します。

2015年度神戸大学法学部・租税法・期末試験の解説と講評




【解説と採点基準】






第1問


(1)授業の最初に扱った問題であり,少しでも試験のための準備をしていれば出来るだろうと考えて出題した。講義ノートで言えば,3-9ページに記載した内容を書いてくれればよい。もちろん『租税法概説』に従った記述でも問題ない。


 採点基準としては,「租税の意義」について15点,「租税の機能」について20点を割り振って,授業で指摘したような項目について正確に書かれているか判定した。「租税の意義」という言葉が理解できなかったのか,「意義と機能」としてまとめて書いている人もいた。この場合,「租税の機能」について書いているとみなした上で,「租税の意義」に該当する事項が書かれている場合に加点した。


(2)講義ノート21-23ページで述べた。


 採点基準としては,(1)包括的所得概念に言及していれば5点,(2)包括的所得概念のようなベースラインからの乖離ということを指摘していれば10点,(3)(1)(2)についての記述が不十分であっても,授業で述べたような具体例を書いてくれていれば8点を与えた。





第2問


 こちらは少し難しいかもしれない。若干問題文がミスリーディングであったことをお詫び申し上げる。


(1)子供を託児所に預けるための支出が,所得税法上必要経費(所得税法37条)として認められるか,という問題である(講義ノート48ページ参照)。結論から言うと,現行の所得税法ついて言えば,こうした支出を必要経費として扱うことは難しいだろう。問題は,それを導くロジックである。まず,給与所得については必要経費の控除が認められておらず(引用した所得税法37条に加え,所得税法28条参照),「給与所得控除額」の控除が認められているにすぎない。条文を根拠としていても(37条に「給与所得」と書いていない),あるいは,理論的に見て認めるべきでないと述べていても,10点を与えた。


 問題は,事業所得の場合である。所得税法45条のことを覚えている人がいれば,この条文を持ち出すのでも構わない。ただ,この条文の内容を覚えていることはこの授業では要求していない。条文を引用するのではなくて,理論的に基礎づけるとすればどうなるか。恐らく,子供を託児所に預けるための支出は,事業所得に係る収入金額を得るために直接必要ではない,と論じることになるのではないか。これに対して,子供を託児所に預けないと働くことができず事業所得に係る収入金額を得ることもできないから,必要経費に該当する(間接的に役立っていれば必要経費になるはずである),という主張も可能かもしれない。必要経費として認められないことの理由付けを自分なりに書こうという意欲が見て取れたものについては,10点を与えた。


(2)講義ノート49-50ページで触れた,支出した年度の必要経費となるか,それとも「資本的支出」として資産計上される(そしてその後の年度の必要経費となるか)ということをわかりやすく説明すればよい。


 タイミングの問題ということに気がついていれば10点を与え,「資本的支出」「資産計上」「減価償却」といったテクニカルタームを使って説明できている答案にはさらに10点を与えた。






第3問


 有益なコメントをたくさんいただいた。ありがとうございました。基本的に,10点を与えた。






【レポートについて】


 租税判例百選を要約した程度のものもあったが,判決文を実際に見て,踏み込んだ検討を行っているものが少なからずあり,素晴らしいと感じた。特に,アメリカの判例を読んで検討した人は,大変だったけれど,力がついたのではないか。留学先でも租税法を勉強しようという方もいらっしゃるようで,頼もしいことである。

2016年3月11日金曜日

「財産権保障と租税立法」が紹介されました

先日神戸法学雑誌に掲載された論文につき,神戸大学附属図書館からわざわざ紹介していただきました。電子図書館係の皆様,ありがとうございました。こちらのリンク先をご覧ください。

2016年2月13日土曜日

財産権保障と租税立法

神戸法学雑誌65巻2号(リンクはこちら)に「財産権保障と租税立法に関する考察」という論文を掲載いたしました。「政策税制と憲法」で検討を開始していた,財産権保障に関する憲法の規定(日本国憲法だと29条)が租税立法との関係で問題となるのか,ということについて,アメリカ法を参照して研究しました。ご覧いただけると幸いです。

2016年1月18日月曜日

神戸大学法学部・租税法(2016年1月18日)



以下,本日の講義用のメモを貼っておきます。授業中にこの通り喋ったわけではなく,また,若干不正確なことも書いてありますがご容赦ください。






消費税法(2016年1月18日)






[以下は,『概説』213-235ページのまとめ。期末試験の出題範囲であるが,配点は最大でも20パーセントとする予定]


○直接消費税と間接消費税


消費を行った者と納税義務者が一致するのが直接消費税。一致しないのが間接消費税(講義資料19ページ参照)。


○個別消費税と一般消費税


特定の物品・サービスのみに課されるか,一般的に課されるか。この区別は相対的なもの(一般消費税であっても,課税されない物品・サービスは存在する)。


○単段階消費税と多段階消費税


アメリカの州税である小売売上税(sales tax)と日本の「消費税」を比較せよ。消費者から見るとわからないが,税務署への支払われ方が異なる。生産段階の各事業者が払う「消費税」と小売段階の事業者だけが払う小売売上税。


○取引高税と付加価値税


日本の「消費税」を含む付加価値税(value added tax: VAT)の誕生に至る歴史を知っておくことは重要。戦前のフランス(を含むヨーロッパ)で行われていた,生産段階の各事業者がそれぞれの取引高に応じて少額の租税を払う制度(取引高税)を改善して,戦後フランスで付加価値税が発明された。取引高税の欠点は,同一の価値の物品に,流通過程が長くなるほど,租税負担が重くなること。


○付加価値とは何か


生産の各段階で事業によって生み出された価値(を金銭評価したもの)のこと。消費する物品・サービスの価格は,こうした価値の総和と一致する。※概説216ページ (b) は省略する。


○仕入税額控除方式


正当な方式としてのインボイス方式と簡易(いい加減)な方式としての日本の「帳簿方式」(現在は,財務省は「請求書等保存方式」と呼んでいる)


→平成28年度税制改革大綱で,軽減税率の導入と合わせて,インボイス方式の導入が決まった。


(以下「大綱」61-64ページより引用)


四 消費課税


1 消費税の軽減税率制度


(国税)


(1)消費税の軽減税率制度


消費税の軽減税率制度を、平成 29年4月1日から導入する。あわせて、複数税率制度に対応した仕入税額控除の方式として、適格請求書等保存方式(いわゆる「インボイス制度」)を平成33年4月1日から導入する。それまでの間については、現行の請求書等保存方式を基本的に維持しつつ、区分経理に対応するための措置を講ずる。


(2)軽減税率対象品目及び税率


軽減税率の対象となる課税資産の譲渡等(以下「軽減対象課税資産の譲渡等」(仮称)という。)は次のとおりとし、軽減税率は6.24%(地方消費税と合わせて8%)とする。


① 飲食料品の譲渡(食品表示法に規定する食品(酒税法に規定する酒類を除く。)の譲渡をいい、外食サービスを除く。)


② 定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞の譲渡


(3)適格請求書等保存方式が導入されるまでの間の経過措置


① 適格請求書等保存方式が導入されるまでの間における仕入税額控除制度については、現行の請求書等保存方式を維持する。ただし、課税仕入れが軽減税率対象品目に係るものである場合には、請求書等に記載されるべき事項として「軽減対象課税資産の譲渡等である旨」及び「税率の異なるごとに合計した対価の額」を加える。なお、これらの事項については、当該請求書等の交付を受けた事業者が事実に基づき追記することを認める措置を講ずる。


② 売上げ又は仕入れを税率の異なるごとに区分することが困難な事業者に対して、売上税額又は仕入税額を簡便に計算することを認める措置を講ずる。


(4)適格請求書等保存方式の導入


① 請求書等保存方式における請求書等の保存に代えて、「適格請求書発行事業者」(仮称)から交付を受けた「適格請求書」(仮称)の保存を、仕入税額控除の要件とする。


(注)上記の「適格請求書」とは、適格請求書発行事業者の登録番号、適用税率、消費税額等の一定の事項が記載された請求書、納品書等の書類をいい、「適格請求書発行事業者」とは、免税事業者以外の事業者であって、納税地を所轄する税務署長に申請書を提出し、適格請求書を交付することのできる事業者として登録を受けた事業者をいう。


② 適格請求書発行事業者登録制度を創設する。


(注)適格請求書発行事業者の登録については、平成 31 年4月1日からその申請を受け付けることとする。


③ 適格請求書発行事業者には、適格請求書の交付義務を課す。


④ 適格請求書を交付することが困難である一定の取引については、適格請求書の交付義務を免除する。また、当該取引に係る課税仕入れを行った事業者においては、一定の事項が記載された帳簿のみの保存による仕入税額控除を認める。


⑤ 適格請求書等保存方式の導入後一定期間については、免税事業者等から行った課税仕入れに係る消費税相当額に一定の割合を乗じて算出した額の控除を認める経過措置を講ずる。


⑥ その他適格請求書等保存方式の導入に係る所要の措置を講ずる。


(注)上記の改正は、平成 33 年4月1日以後に国内において事業者が行う資産の譲渡等及び課税仕入れ並びに保税地域から引き取られる課税貨物について適用する。


(5)その他所要の措置を講ずる。


(注)上記の改正は、(1)及び(4)を除き、平成29年4月1日以後に国内において事業者が行う資産の譲渡等及び課税仕入れ並びに保税地域から引き取られる課税貨物について適用する。


(上記(1)から(5)までにつき別紙1参照)


(6)[略]


(7)軽減税率制度の円滑な導入・運用のため、平成 28 年度税制改正法案において次に掲げる旨を規定する。


① 軽減税率制度の導入に当たり混乱が生じないよう万全の準備を進めるため、政府に必要な体制を整備するとともに、事業者の準備状況等を検証しつつ、必要に応じて、軽減税率制度の円滑な導入・運用に資するための必要な措置を講ずる。


② 軽減税率制度の円滑な運用及び適正な課税の確保の観点から、中小・小規模事業者の経営の高度化を促進しつつ、軽減税率制度の導入後3年以内を目途に、適格請求書等保存方式(インボイス制度)導入に係る事業者の準備状況及び事業者取引への影響の可能性、軽減税率制度導入による簡易課税制度への影響、経過措置の適用状況などを検証し、必要と認められるときは、その結果に基づいて法制上の措置その他必要な措置を講ずる。


(引用終わり)






(以下,参考までに財務省ホームページによる説明へのリンクを貼っておく)

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/401.htm





○国際的二重課税の排除


仕向地主義に基づいて,最終消費者所在地国が付加価値=消費額の全額について課税できるという仕組みになっている。このことを達成するための仕組みが,「輸出免税」と「輸入貨物への課税」。


○課税物件の基本構造


課税取引,免税取引(課税されないだけでなく,すでに前段階までで支払われた消費税相当額が事業者に還付される。輸出取引),非課税取引(理論的には付加価値が存在するが,政策的に課税されず,しかし,すでに支払われている消費税相当額の還付はない。大学の授業料・病院の診察料),「不課税取引」(理論的には付加価値が存在するが,事業者が介在しないので,消費税法が課税を諦めている)。


○非課税取引の範囲


本当に「消費税の課税になじまない」と言えるか疑わしいものもある。世界的には,非課税取引の範囲を縮小していこうという動きがある。


○納税義務者


「免税事業者制度」の問題点。消費者から預かっている消費税相当額を納税しなくて良いという仕組み。なお,外国では,公的団体一般が免税事業者になっている例があり,望ましくないと考えられている。


○課税標準・課税期間・税率


軽減税率の導入については前掲の「大綱」を参照。


○売上税額と仕入税額控除


仕入税額控除の存在が付加価値税の要。問題になるのが,課税取引(例えば,駐車場の経営)と非課税取引(例えば,医療サービス)の両方を行っている事業者について,それぞれの仕入をどのように区分するか,ということ(233ページの図を参照)。ここでも,前段階でかかっている消費税額よりも多い額を仕入税額控除することによって,消費者から預かっている消費税相当額(の一部)が納税されない,という問題が出てくる。